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なまぐさ坊主の聖地巡礼

プロフィール

ホンジュン

Author:ホンジュン
日蓮宗の小さなお寺の住職です。
なにしろ貧乏なお寺ですので、松井秀樹や本田圭佑で有名な星稜高校で非常勤講師として2018年3月まで世界史を教えていました。
 毎日酒に溺れているなまぐさ坊主が仏教やイスラーム教の聖地を巡礼した記録を綴りながら、仏教や歴史について語ります。

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祈りと混沌の世界ーベナレス③

2月24日(水)

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 45分ほど南に船を進めた後、Uターン。僕は朝日を撮影するために左舷に席をとったので、ガートの沐浴風景は帰りに撮る予定で、一枚も撮していない。ゆっくり構えていたら、エンジンが掛かった。しまった、忘れてた。帰りは櫓を漕がす、船頭さんが楽するためにエンジン走行するんだった。
 
 慌ててファインダーを覗く。

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ハリスチャンドラ・ガートでの火葬

 ベナレスでガンジス川は北上するが、西岸6.4キロにわたって84のガートが連なっている。ガートは岸辺から階段になって河水に没している堤のことで、沐浴する場所として使われているが、ハリシュチャンドラ・ガートとマニカルニカー・ガートは火葬場としても使われている。煙があがっていたので、ズームで撮影した。本当は撮影は厳禁。見つかったら大変なことになるが、ズームでの撮影なので、気づかれることはないだろうと思って撮影した。ところが残念(?)なことに、火葬は終了してしまっていた。


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 という訳で、これは借りてきた画像。死者はガンジス川の水に浸された後、薪の上に載せられ、喪主が火をつける。

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 遺灰は火葬場の仕事をするドーム・カーストの人たちによってガンジス川に流される。ちなみに、赤ん坊、妊婦、蛇に噛まれて死んだ人は荼毘【だび】にふさない。黄色い布に包まれたまま船に乗せられ、川の中程まで出たところで浮いてこないように、重しとなる石を足にくくりつけ川に流される。

 
三島由紀夫は『豊饒の海』の取材でここベナレスを訪れ、火葬風景を目の当たりにして大きな衝撃を受けたそうだ。

彼はこんなふうに書いている。

 「ベナレス。それは華麗なほど醜い一枚の絨毯だった。千五百の寺院、朱色の柱にあらゆる性交の体位を黒檀の浮彫であらわした愛の寺院、ひねもす読経の声もひたすらに死を待っている寡婦たちの家、住む人、訪う人、死んでゆく人、死んだ人たち、瘡だらけの子供たち、母親の乳房にすがりながら死んでいる子供たち、……これらの寺々や人々によって、日を夜に継いで、喜々として天空へ捧げられている一枚の騒がしい絨毯だった」

 「屍体は次々と火に委ねられていた。縛めの縄は焼き切れ、赤や白の屍衣は焦げ失せて、突然、黒い腕がもたげられたり、屍体が寝返りを打つかのように、火中に身を反らせたりするのが眺められた。先に焼かれたものから、黒い灰墨の色があらわになった。ものの煮えこぼれるような音が水面に伝わった。焼けにくいのは頭蓋であった。たえず竹竿を携えた穏亡が徘徊していて、体は灰になっても頭ばかり燻る屍の、頭蓋をその竿で突き砕いた。力をこめて突き砕く黒い腕の筋肉は炎に映え、この音は寺院の壁に反響してかつかつとひびいた。(三島由紀夫『豊饒の海(三)暁の寺』新潮文庫より)

 「華麗なほど醜い一枚の絨毯」。流石、文学者は言うことが違うね。

 日本では「死」は日常から遠ざけられ、覆い隠されてしまっている。お爺さん・お婆さんが病気になれば、すぐに病院に運ばれ、病院で息を引き取る。棺に納められた遺体は美しい花で飾られ、釜の蓋が閉まる。収骨室にあがってくるのは綺麗に焼けた遺骨。家族のほとんどが醜い死を目の当たりにすることはない。

 しかし、ここインドでは生々しい「死」の現実を見せつけられる。あなたは自分の両親が炎に包まれて焼ける姿を直視できるだろうか?

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 ガートの背後には王侯の館や寺院がぎっしりと建ち並んでいる。その中に「久美子の家」というのがあって、以前は喜んで写真を撮ったが、今では撮る気もしない。26歳の時に日本で出会ったインド人と結婚して、すぐに渡印。結婚5年後からゲストハウスを経営し、日本人のバックパッカーからは「ベナレスのお母さん」と呼ばれているそうな。もう歳だからということで、次期経営者を募集しているそうだよ。あなた、やってみる気ない?

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 今日はなぜか沐浴している人の数が少なくて、なかなかいい写真が撮れない。

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 写真はモエンジョ=ダーロの遺跡。インダス文明は専制君主の存在を示す遺物が発見されない不思議な文明。巨大な宮殿や王墓、神殿が発見されていない。計画して建設された都市の中心部にあるのが写真の沐浴場だ。タテ・ヨコ12×7メートル、深さ2.5メートルの焼レンガ造りで、南北に階段がつけられている。インダス文明を築いた人々は、ここで沐浴していたんだ。だからインドの人々の沐浴好きには4000年の伝統がある。

 
沐浴は水によって身体についた穢れを落とすことで、いろんな宗教でみられる。イエスも受けたユダヤ教の洗礼、イスラーム教徒の沐浴、日本の禊ぎの儀式もそうだ。でもインドの人々はこの穢れに対する意識が強くて、穢れによる浄・不浄思想に基づく上下関係がカースト制度だ。でも、インダス文明を築いたのはアーリヤ人ではなく、ドラヴィダ人だよね。彼らの穢れに対する考え方はどんなんだったろうか?

 カーストの上下関係の最上位にいるのがバラモン(司祭者)で最下位が不可触民(チャンダーラ)だ。カーストの基本はバラモン・クシャトリヤ・ヴァイシャ・シュードラの4つのヴァルナ。下位にいくにしたがって穢れの度合いが強くなり、下位のものから食事を受け取れば自分に穢れが伝染すると考える。不可植民はこの4つのヴァルナにも入れない存在で、ダリットとも呼ぶ。皮革業者・屠殺業者・街路清掃人・洗濯人などの職業につき、現在インドの総人口の16%を占める。


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 まあ、難しい話はこのくらいにして、ガートに目をやろう。おやっ、このご婦人のご一行さんは、スリランカの人?でも額にはビンディをつけてるし、ヒンドゥー教徒だよね。ヒンドゥー教徒なのに沐浴しないで、ボートで見学?ラケーシュ君に聞くの忘れちゃった。

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 ボートに乗って1時間、マニカルニカー・ガートに帰ってきた。このガートも火葬場がおかれている。燃料の薪が積まれており、火葬が終わったのか、薄く煙りがあがっている。ここは24時間営業で多い時には1日に100体の遺体を焼くそうだ。

 おやっ、牛が。沢木耕太郎の『深夜特急』の一節を思い出した。

 「しかしこの死体焼場で、私の眼に異様に映ったのは烏ではなく、むしろ牛だった。この沐浴所にも野良牛がうろついており、台地の上から死体を焼く煙が流れてくると、口を開け、眼をさらに細め、首を前に突き出して恍惚とした表情で匂いを嗅ぐのだった。私は、一日中、死体焼場にいて、焼かれたり、流されたりする死体を眺めつづけた」(沢木耕太郎『深夜特急3』新潮文庫より)


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 やっぱり、このガートが一番混んでるね。

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 最後の最後に見つけた美しい女性。
 もうお腹すいちゃった。ホテルに帰って朝ご飯にしようっと。

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【 2016/06/25 12:02 】

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祈りと混沌の世界ーベナレス②

2月24日(水)

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 さあ、ヒンドゥー教徒の沐浴風景見学に出発しよう。今日は幸いなることにプルニマ(満月の日)で、おまけに水曜日はシヴァ神の息子ガネーシャの日だってさ。

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 赤いバラと黄色いマリーゴールドの花びら。これを何に使うかって?

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 船に乗ったらまず初めに行う儀式がある。花を飾ったローソクに火をつけてガンジス川に流すんだ。日本なら灯篭流しというところだが、先祖供養のためではない。神さまにお祈りするためのお供えだ。小さな船だと水面まで近いから、水面にそっと置けるんだけど、団体客が乗っている船だと水面まで距離があり、そのうえに波があって、すぐにひっくり返ってしまう。

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 用心深く水面に投下。みごと成功。長男夫婦に子供が授かるように祈った。パールヴァティーは安産と子宝の神さま、ガネーシャお願いだからお母さんにお願いしといて、子供が出来ますようにって。

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 どこからともなくカモメの大群が現れたと思ったら、旅の仲間が餌を投げている。餌を売りに来た奴がいて、そいつから買ったらしい。かけ声とともに餌を空中に投げるとカモメが群がってくる。ヒッチコック監督の「鳥」の1シーンを思い出すほどのカモメの数。みんな面白がって、餌をバンバン投げる。

 8年前に来たときにガンジス川にカモメがいたかどうかは覚えていないけど、カゴメの餌を売る奴はいなかった。賢い奴がいて、新しい商売を考えだしたんだね。まあ、奈良公園で鹿煎餅売っているのと一緒か。冬場になると金沢の橋場町あたりの浅野川にもカモメが群れてるから、観光客相手に商売した儲かるかも知んないね。

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 ところで、このカモメ、ユリカモメだよね。黒頭巾をかぶったようなのがいるけど、これは夏羽なんだそうだ。でも、カモメという鳥は海鳥だよね。なんで川にいるの?調べてみたら、かなり内陸部まで飛来してくるそうで、京都の鴨川あたりにもいる。ポーランドのワルシャワは河口から300キロもあるけど、飛来するそうだ。でも、ベナレスはベンガル湾から1200キロもある。これ、本当にユリカモメ?川カモメという新種の鳥じゃないの。

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 あっ、そうだ。ガンジス川にはカワイルカというのが棲息している。普通のイルカよりも目が小さくて、口が尖ってる。これの餌付けに成功したら、世界中からツアー客が押し寄せて、儲かるんじゃないかな。近畿大学と協力してやってみるインド人はいませんかね?
 
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馬鹿なこと言ってないで、撮影準備して。

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 おやおや、今度は土産物屋の船が近づいてきた。20年ほど前には金メッキした銅製の小さな壺を買った。これにガンジス川の水を汲んで日本に持って帰った。何に使うのか?って。ひどい便秘の時にこれを飲むと、いっぺんに腹が下って便秘が治るというわけだ。 

 まあ、それは冗談。当時、向山の善妙寺で写経の会の世話をしていたので、墨を摺るのに使ってもらった。はるばるインドから持ち帰った水なので、参加者全員に有り難がられた。
 
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 おっさん、船の中に商品を並べ始めた。ガネーシャのマトリョーシカに、山珊瑚の数珠。
 
 「ナヒン チャヒエ」。要らないから、あっちへ行け。もうすぐ日が昇るじゃないか。邪魔だ、あっちへ行け。

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 おやおや、お隣の船にも土産物屋が。商魂たくましいね~。

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 6時31分、ご来光。!!!!

 
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 いや~、何遍見ても、インドの太陽は美しく、神秘的な力を感じるね~。今はデジカメがあるからいいけど、以前は限られた数のフィルムしか持って来れなかった。それを太陽ばっかり2本も3本も撮して後から後悔したもんだ。いい時代になったもんだね。

 さあ、インドの自然は十分に堪能した。今度は人間の営みだ。(つづく)


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【 2016/06/15 06:44 】

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