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なまぐさ坊主の聖地巡礼

プロフィール

ホンジュン

Author:ホンジュン
日蓮宗の小さなお寺の住職です。
なにしろ貧乏なお寺ですので、松井秀樹や本田圭佑で有名な星稜高校で非常勤講師として2018年3月まで世界史を教えていました。
 毎日酒に溺れているなまぐさ坊主が仏教やイスラーム教の聖地を巡礼した記録を綴りながら、仏教や歴史について語ります。

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ブッダの弟子たち その7


ブッダを知りませんか?

アヌルッダ(阿那律【あなりつ】)


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中村晋也作『薬師寺・釈迦十大弟子』

 アヌルッダはスッドーダナ王の弟のドートーダナかアミドーダナの子で、ブッダの従兄弟にあたる。ブッダがカピラヴァッツに帰って来てからシャカ族の青年の出家が相次ぐ中、お兄さんのマハーナーマンとアヌルッダのどちらかが出家しようということになったんだって。二人の相談の結果、お兄さんが家を継ぎ、アヌルッダが出家することになった。ところがお母さんが猛反対で出家を許してくれない。必死で頼み込んだところ、バッディヤも出家するなら許してあげると言われた。バッディヤはナンダとラーフラが出家した後、スッドーダナ王がシャカ族の王に指名した人だったよね。お母さんはまさか王になったばかりのバッディヤが出家するはずはないと思ったんだろうね。アヌルッダが必死になってバッディヤを説得した結果、バッディヤがOKした。お母さんの作戦はものの見事に失敗。そういうわけで、前回お話ししたように、バッディヤ、アーナンダら5人とともに出家した。
 
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『いちばんやさしいブッダの教え』

 アヌルッダはそんな必死の思いで出家したにもかかわらず、祇園精舎での初めての説法の時についうとうとと居眠りをしてしまった。それに気づいたブッダはアヌルッダに言った。
「お前は王の法律を恐れて出家したのか、それとも盗賊が怖くて修行しているのか?」
 アヌルッダは答えた。
「ブッダよ、決してそうではございません。私は生老病死を嫌って出家いたしました」
「アヌルッダよ、お前は道を求める固い志をもって出家したのだ。それなのに、私の説法の座で居眠りをするとはどうしたことか」と、ブッダはアヌルッダを叱責した。
 その時、アヌルッダは座より立ち上がり、手を胸のうえに組み、ひれ伏してブッダを拝し、決意してこう言ったそうだ。
「ブッダよ、今日から以後、私はたとえ我が身が溶けただれようとも、ブッダのみ前で眠るようなことは決していたしません。不眠不臥で修行いたします」

 講義や講演を聴きながら、どうにも眠くて我慢できず、ついうとうとと居眠りした経験なんか一度もない、という人はいないよね。僕も学生時代そうだった。だから、僕の世界史の講義を聴いていて、初中後【しょっちゅう】居眠りしている生徒がいても、あんまり怒らないんだ。でも、あんまりたくさんの生徒が寝ていると、僕の授業がつまらないんかな~、と不安になってしまう。

 その時からアヌルッダは、ブッダのそばにいる間は、夜が更けて明け方になっても決して眠らなかったそうだ。でも人間は睡眠しないで生きることはできないよね。彼はやがて眼を痛めてしまう。こんな極端な修行方法はブッダの言う「中道」に反るすよね。ブッダは、
「アヌルッダよ、修行を怠るのはよくないが、刻苦に過ぎるのもよくない」
と言って、眠るように勧めたんだけど、アヌルッダは、
「ひとたびブッダのみ前でお誓いしたことを破るわけにはまいりません」
 と答えた。

 このままでは失明してしまうと案じたブッダが、名医ジーヴァカにアヌルッダの眼を治療するように頼んだんだけど、
「アヌルッダが少しでも睡眠をとってくれれば治療も可能なんだが、このままではどうすることもできません」と言って、匙を投げてしまった。

 ブッダは、さらにアヌルッダに対して、
「万物は食事によって存在することができる。眼には眠りが食事である。耳には声が食事であり、鼻には香りが食事であり、舌には味が食事であるなどというように。アヌルッダよ、だから眠りなさい」
と勧めたけど、アヌルッダの決意は変わることはなかった。


 こうして、アヌルッダはついに失明してしまう。しかし、彼の肉眼はつぶれてしまったが、心の眼はこの時に開き、見えないものを見通す力「天眼通」を獲得し、アヌルッダは「天眼第一」と称された。

 仏教の修行生活が苦と楽の両極端を離れた中道であるべきことは、アヌルッダも十分に理解していたはずだ。それにもかかわらず再三にわたるブッダの忠告をしりぞけて、不眠の誓いを守り通したのは、母親の反対を押し切って道を求めて出家した身であるのに、ブッダの説法を聴きながら居眠りをしたということが、よっぽど恥ずかしかったんだろうね。最近の若者をみていると(こんな台詞は年寄りみたいだけど、まあもうすぐ前期高齢者だから仕方がない)、恥ずかしいという思いが弱いように感じる。僕なんか若い頃に法要なんかでいっぱい恥をかいて、その恥ずかしいという思いをバネに頑張って、生臭だけど、まあなんとか一人前の坊さんになれたんだと思う。失敗しても恥ずかしいという思いがないと、いつまでたっても進歩しないよね。

 アヌルッダについては、こんな話も伝わっている。ある日、アヌルッダは祇園精舎で自分の着ていた衣のほころびを縫おうとしていた。しかし、心の眼を開いたとは言っても、失明しているアヌルッダはどうしても針の孔【あな】に糸を通すことが出来なかった。途方にくれたアヌルッダは、つぶやいた。
「もろもろの悟りに達した聖者方のうちで、どなたか私のために針に糸を通し、さらに功徳を積もうとする方はおられないだろうか?」
 すると、アヌルッダのそばに近づいた者があり、
「私がアヌルッダのために針に糸を通し、功徳を積ませてもらおう」
 と言った。それはまぎれもないブッダその人の声であった。驚いたアヌルッダはこう言った。
「ブッダよ、私が先に申しましたのは、悟りに達した聖者の方々の中に、誰か私のために針に糸を通して、さらに功徳を積もうとする者はいないかということであって、すでにあらゆる功徳を積まれているブッダにお願いしたのではございません」
 それに対してブッダの答えは次のようであった。
「アヌルッダよ、世間に功徳を求める人は多いが、私にまさる者はあるまい。アヌルッダよ、私は施しや説法などすべての点で不足するところはないが、それでもなお功徳を積もうとしている。それは私自身のためではなく、生きとし生けるもののためである」

 ブッダの心を知ったアヌルッダは、ただ黙ってブッダに衣のほころびを縫ってもらったそうだ。 ブッダに衣のほころびを塗ってもらった弟子はアヌルッダただ一人だけだ。弟子を思うブッダの心がよく伝わってきて、涙が滲んでくる。僕もこんな師匠が欲しかったな~。(笑)

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 この絵はブッダの死を描いた涅槃図【ねはんず】だ。
アヌルッダはブッダ最後の旅に同行しており、ブッダの師を悲嘆し慟哭する弟子達を慰め励ましたそうだ。アーナンダに指示してクシナガラのマッラ族に葬儀の用意をさせたのもアヌルッダだったそうだ。だから涅槃図にも当然、登場してくるんだけど、実はこの中にアヌルッダが二人いるんだよ。どれか分かる?

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 金色に輝くブッダの前にいるのが一人目のアヌルッダ。その膝に頭を横たえているのがアーナンダで、眼をつぶっているんじゃなくて、悲しみのあまりに気絶しちゃったんだ。アヌルッダがそれを介抱してるんだ。もう一人のアヌルッダはブッダの真上の雲に乗っている。ブッダの死の知らせを受けたお母さんのマーヤーが兜率天【とそつてん】からクシナガラの地に降りてこられたんだけど、アヌルッダがそれを先導しているんだ。これ「異時同図法」といって、1枚の絵の中に時間の異なる場面を描いたものなんだけど、もしどっかで涅槃図を見る機会があったら、よ~く見てみてね。(つづく)




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テーマ:歴史 - ジャンル:学問・文化・芸術

【 2014/07/25 15:50 】

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