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なまぐさ坊主の聖地巡礼

プロフィール

ホンジュン

Author:ホンジュン
日蓮宗の小さなお寺の住職です。
なにしろ貧乏なお寺ですので、松井秀樹や本田圭佑で有名な星稜高校で非常勤講師として2018年3月まで世界史を教えていました。
 毎日酒に溺れているなまぐさ坊主が仏教やイスラーム教の聖地を巡礼した記録を綴ってまいりましたが、これからしばらくは世界史のミラクルワールドをお届けします。

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ブッダの弟子たち その14



ブッダを知りませんか?

アングリマーラ(央掘摩羅【おうくつまら】)

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                                             手塚治虫『ブッダ』

 アングリマーラは殺人鬼としてのあだ名で、本名はアヒンサーといった。アヒンサーはコーサラ国のパセーナディ王に仕える大臣の子として生まれ、もの凄い美男子で、スポーツ万能で、そのうえ勉強も出来て、タキシラでも学んだそうだ。タキシラって、知らない?パキスタンのガンダーラ地方の都市で、ヴェーダンタ学派をはじめ学問の中心となっていた町だ。後にはかのアレクサンドロス大王も遠征で訪れ、彼亡き後はインド・グリーク朝というギリシャ人の王朝が生まれている。僕も2006年にここを旅したんだけど、今はタリバーンの連中が支配していて危なくて行けない。

 話がそれちゃったけど、まあ兎に角アヒンサーは学問大好きな青年だった。ちなみにアヒンサーというのは「非暴力」のことで、生き物を殺したり害したりすることを禁止するというインドの宗教の大事な教義だ。かのマハトマ=ガンディーのサティヤーグラハ運動でも中心的な政策となった。そんな意味の名を持つアヒンサーが殺人鬼となったのには当然訳がある。

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 アヒンサーは12歳の時から、パーラカシー村のマニバドラというバラモンに師事し、4ヴェーダを学んでいた。ヴェーダはバラモン教の聖典。一番古いのが『リグ=ヴェーダ』だったよね。マニバドラには500人のお弟子さんがいたんだけど、もともと才能がありその上一生懸命勉強したもんだから、あれよあれよという間にアヒンサーは頭角をあらわし一番弟子になってしまった。お師匠さんには若くて美しい奥さんがいたんだけど、ある時、この奥さんがお師匠さんの留守中にアヒンサーに言い寄ったんだ。なんせ、いい男だったからね。でも、彼は「お師匠さんは父、お師匠さんの奥さんは母と同じです」と言って、拒んだ。これを怨みに思ったお師匠さんの奥さんは、自分で着ている衣装をビリビリに引き裂いて、悲しそうな顔をして寝込んでいた。

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 帰ってきたマニバドラがわけを尋ねると、
「あなたが秀才で真面目な青年だと言っているアヒンサーが、あなたの留守中に私に言い寄ってきたのよ。私が言うことをきかないもんだから、怒って私に乱暴したのよ」
 と、事実とは反対のことを告げて、ヨと泣き崩れた。これを聞いたマニバドラはかんかんに怒って、すぐに懲らしめてやろうとした。だけど、アヒンサーは力が強いんで、老齢の自分は力ではかなわない。その上、父親は大臣だから、下手をすると自分の地位が危うくなってしまうかも知れないと考え、アヒンサーを自滅させる恐ろしい方法で復讐することを思いついた。

 マニバドラはアヒンサーを呼んで、
「この剣で7日の間に1000人の人間を殺し、その一人一人から1本の指を切り取り、紐を通して首飾り(マーラ)を作って持って来なさい。そうすればお前の修行は完成する」
と命令し、鋭利な剣を渡した。
 これを聞いたアヒンサーはびっくりしてしまう。「お師匠さま、私にはそんな恐ろしいことは出来ません。だいいち人を殺して修行が完成するなどということがありましょうか?」
「五月蠅い!つべこべ言うんじゃない。一人前のバラモンになりたくないんか。師匠の言うことがきけないんだったら、お前は破門だ!!!」
 そう言われたアヒンサーは「師の教えに背くことは出来ない」と、与えられた剣を手にシュラヴァスティーの町へと飛び出して行った。いくらお師匠さんの命令でも殺人なんて出来っこないから、アヒンサーはお師匠さんに催眠術をかけられたのかも知れないね。

 こうしてアヒンサーは絶えず手を血で塗らして殺戮を繰り返し、切り取った指で作った首飾りをかけ、村や町を徘徊した。シュラヴァスティーの人々は逃げまどい、狂気に満ちた殺人鬼アヒンサーを「指の首飾りを持つ者」という意味で、アングリマーラと呼ぶようになった。

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 「指の首飾り」で思い出したのが、「生首の首飾り」をさげたこの女神さん。知ってる?シヴァ神の奥さんの一人なんだけど、カーリー女神だ。カルカッタ、いや今はコルカタだね。コルカタにあるカーリー寺院に祀られている凶暴な女神さんで、生け贄を欲しがるんだ。カーリー寺院には何回が行ってるけど、かわいい山羊さんが犠牲になるのを見たことがある。

 またまた話がそれちゃったね、ご免。次から次へと犠牲者が出る中、人々はアングリマーラの悪鬼のような所業に恐怖し、王宮に訴え出たんだ。ちょうど王宮に滞在していたブッダがこれを聞いて、「私が行ってアングリマーラを救ってやろう」と言って、街中へと出て行った。 

 いっぽう、アングリマーラは999本の指をそろえて、あと1本で首飾りが完成するところまで来ていた。ところが、町中の人々が逃げたり隠れてしまっていて、いくら懸命に探しても人っ子一人おらず、あと1本がなかなか手に入らなかった。そんな時に一人の女の人が彼の前を通った。「しめしめ、やっと最後の獲物が手に入るぞ」と舌なめずりしながら近づくと、なんとアングリマーラの母親だった。殺人鬼であってもまさか自分の母親を殺すなんてことはしないだろう、と思うよね。ところが、999人を殺して尋常な思考力を失っていたアングリマーラは、母親に襲いかかろうとした。危うし、母親の運命やいかに!という緊迫した状況の時に、ブッダがアングリマーラの横をゆっくりと歩いて通り過ぎて行った。

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  アングリマーラは母親を突き放すと、ブッダを最後の獲物として追うことにした。1000人の命と1000本の指を奪えと命ぜられ、道行く人々を襲い、999人の命と999本の指をすでに奪い、1000人目としてブッダを狙うアングリマーラ。なんか、どっかで聞いたような……。そうそう、武蔵坊弁慶だ!1000本の太刀を奪おうと願を立て、道行く人々を襲って999本の太刀をすでに奪い、1000人目として義経を狙う弁慶。一緒じゃん。

 ところが、アングリマーラが全力で追いかけているにも関わらず、ブッダになかなか近づくことが出来ない。しだいに苛立ってきて、ついに大声で叫んだ。
「おい、そこの坊さん。少し止まれ」
 ブッダは静かに言った。
「私は最初から立ち止まっているよ。お前こそ早く止まりなさい」
「え? 坊さんよ、あんたは歩きながら『私は止まっている』といい、俺が立ち止まっていのにる『お前こそ止まれ』という。坊さんよ、どうすればあんたは止まり、俺は立ち止まらないで近づくことができるのか?」
「アングリマーラよ。本当に私は立ち止まっている。私は常に一切の生きとし生けるものどもに対する暴力を抑制しているからだ。しかし、お前は生きものどもに対して害する心を抑制しておらず、日ごとに人の命を奪う。だからこそ私は立ち止まり、お前は立ち止まることが出来ないのだ」      

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                                        韓国・海印寺の壁画

 アングリマーラは突然雷に打たれたように剣を大地に投げ捨てて、ブッダの足下に身を伏して言った。
「お坊さん、あなたの真理にかなった言葉を聞き、今こそ千にも達する悪業を捨てようと決めました」               

 ブッダは静かにただ一言、「来い、修行者よ」と声をかけ、アングリマーラを連れて祇園精舎に戻った。
 そこへ500人の兵を率いたパセーナディ王がブッダを訪ねて来た。きっと、アングリマーラの捕獲についてブッダのアドバイスが欲しかったんだろうね。車を下りて歩いて来る王を迎えて、ブッダは問いかけた。
「王よ、あなたはこのような兵を率いて、マガダ国でも攻めに行こうというですか?」 
「ブッダよ、それは違う。私はいま国中の人の訴えを聞いて、アングリマーラという領内の連続無差別殺人犯を捕まえようとしているんだ」
 ブッダは尋ねた。
「だったら王よ、もしその連続無差別殺人犯が頭髪と髭を剃り落とし、袈裟をまとい、世俗の生活を捨て出家し、凶悪な仕業を悔いて、殺生を離れ、広く善行を尽くそうとしていたら、彼をどうしますか?」
 王はそんなことなど到底あり得ないと思い、
「もちろん、私は彼に礼を尽くし、喜んで彼を迎え、彼に保護を与えよう」と言ってしまった。

 その時ブッダは右腕を上げ、片隅で静かに瞑想している一人の弟子を示し、「王よ、彼こそ王のたずねているアングリマーラである」と教えた。
 「あのアングリマーラ」が目の前にいることを知った王は、身の毛がよだつほどの恐怖を覚えた。パセーナディ王といえば、当時のインドの2大強国の統治者だ。その王が心底震え上がるほどの恐怖を感じたというんだから、当時の人々がアングリマーラをどれほど恐れていたかが分かるよね。
「王よ、恐れることはない。人がもし犯した罪業を悔い改めたなら、この世を照らすこと、あたかも雲を離れた月のごとし。私の法を聞いて最勝のやすらぎに達した彼は、今なんびとをも傷つけ害することなく、かえって強きものも弱きものも、ともに慈しみ護ることでしょう」
 王はやっと落ち着きを取り戻して、そばに控えていた修行者に聞いた。
「尊者よ、あなたはアングリマーラか?」
「はい、私は以前連続無差別殺人犯で、アングリマーラと呼ばれていました。しかし、今は迷いのもとを滅して、ブッダに帰依しています」
「そうか。ならば私はあなたに衣服や食事、医薬などを与えましょう」
「王よ、私はすでに満ち足りています。何も要りません」
 アングリマーラはきっぱりと断った。王は首を振りふりブッダに向かって、
「偉大なるかな、ブッダ。あなたの導きは最上なり。私たちが武器をもってしても打ち伏せることができなかった者を、ブッダはよく武器なくて降伏させました」
 そう言うと、兵を引き連れて城へ帰って行った。

 えーっ、王さまはなんでアングリマーラを逮捕しないの、って思うよね。逮捕できない理由が2つあるんだ。一つはブッダとのやりとりの中で、「アングリマーラが出家者となり、悪行をすべて捨て善人になっていたら、
彼に礼を尽くし、喜んで彼を迎え、彼に保護を与える」と宣言しちゃったということ。これでもし逮捕したら王さまはブッダに嘘をついたことになってしまう。もう一つの理由はインドにおける出家とは社会的な義務と権利をすべて放棄することだから、出家者は王が定めた世俗の法に従う義務がないんだ。ブッダの教団ではどんな悪事をはたらいた者でも、ひとたび懺悔して仏弟子となった以上、一人の修行者として平等に扱われ、やがて修行を完成した者となることができたんだ。

 まあ、逮捕できないことは理屈では分かるけど、親や子供を殺された者にとっては納得いくわけがない。
翌朝、町へ托鉢に出たアングリマーラを見た人々は、騒ぎ出し、ある者は土くれや棒切れを投げたり石を投げたりしたので、彼は頭に傷を負い、血を流し、鉢は壊され、着衣はぼろぼろに引き裂かれてしまった。ブッダはずたぼろになって帰って来たアングリマーラをいたわりながら、
「アングリマーラよ、今こそよく耐え忍ぶべし。お前の苦しみは、すべてお前が先に犯した罪のなせるところだ。他の人を恨んではいけないよ。一人深く、自らの内を観なさい」
「都大路に捨てられし 塵芥【ちりあくた】の堆【つみ】の中より げに香たかく こころたのしき白蓮は生ぜん」
 と言い聞かせた。(つづく) 
 

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テーマ:歴史 - ジャンル:学問・文化・芸術

【 2014/08/24 14:35 】

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