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なまぐさ坊主の聖地巡礼

プロフィール

ホンジュン

Author:ホンジュン
日蓮宗の小さなお寺の住職です。
なにしろ貧乏なお寺ですので、松井秀樹や本田圭佑で有名な星稜高校で非常勤講師として2018年3月まで世界史を教えていました。
 毎日酒に溺れているなまぐさ坊主が仏教やイスラーム教の聖地を巡礼した記録を綴りながら、仏教や歴史について語ります。

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愛子に先立たれた母のために 上野殿母尼御前御返事⑦

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波木井の御影(身延山久遠寺蔵)

上野殿母尼御前御返事うえのどのははあまごぜんごへんじ

 仏もまたかくのごとく、多宝仏と申す仏はこの経にあひ給はざれば御

入滅、この経をよむ代には出現し給ふ。釈迦仏十方の諸仏もまたまたか

くのごとしる不思議の徳まします経なればこの経をたもつ人を

ば、いかでか天照太神てんそうだいじん八幡大菩薩はちまんだいぼさつ富士千眼ふじせんげん大菩薩すてさせ給ふべ

きとたのもしき事なり。

 また、この経にあだをなす国をばいかに正直に祈り候へども、必ずそ

の国に七難起りて他国に破られて亡国ぼうこくとなり候事、大海の中の大船の大

風にふがごとく、大旱魃かんばつの草木を枯すがごとしとをぼしめせ。当時日

本国のいかなるいのり候とも、日蓮が一門法華経の行者をあなづらせ給

へば、さまざまの御いのりかなはずして、大蒙古もうこ国にせめられて、すでに

ほろびんとするがごとし。今も御覧ぜよ。ただかくては候まじきぞ。こ

れ皆法華経をあだませ給ふゆへと御信用あるべし。

 そもそも故五郎殿かくれ給てすでに四十九日なり無常はつねのならい

なれども、この事はうちきく人すら、なをしのびがたし。いわうや母と

なり、となる人をや。心のほとをしはかられて候。人の子にはをさな

きもあり、をとなしきもあり、みにくきもあり、かたわなるもあり、を

もひになるべきにや。をのこゝ(男子)たる上、かたわにもなし、ゆみ

やにもささひなし、心もなさけあり。故上野殿には盛なりし時をくれて

なげき浅からざりしに、この子をはらみていまださん(産)なかりしか

ば、火にも入り、水にも入らんと思ひしに、この子すでに平安なりしか

ば、誰にあつらへて身をもなぐべきと思ふて、これに心をなぐさめて、

この十四五年はすぎぬ。いかにいかにとすべき。二人のをのこごにこそ

にな(荷)われめと、たのもしく思ひ候つるに、今年九月五日、月を雲

にかくされ、花を風にふかせて、ゆめ(夢)かゆめならざるか、あわれ

ひさしきゆめかなと、なげきをり候へば、うつゝにてすでに四十九日は

せすぎぬ。

 まことならばいかんがせんいかんがせん。さける花はちらずして、つ

ぼめる花のかれたる。をいたる母はとどまりて、わかきこはさりぬ。な

さけなかりける無常かな無常かな。

 かゝるなさけなき国をばいといすてさせ給ひて、故五郎殿の御信用あ

りし法華経につかせ給ひて常住不壊じょうじゅうふえのりやう山浄土ぜんじょうどへまいらせさせ

たまふちゝはりやうぜんにまします母は娑婆しゃばにとどまれり。二人の中間

にをはします故五郎殿の心こそ、をもいやられてあわれにをぼへ候へ。

事多しと申せども、とどめ候了んぬ。恐々謹言。

十二月二十四日                 
日 蓮  花押

上野殿母尼御前 御返事

【現代語訳】

仏国土たる霊山浄土へ

 仏もまたこれと同様である。多宝仏という仏は、法華経に会わない所では御入滅にな

られて現われず、法華経を読む所には出現なされる。釈迦仏も十方の諸仏もまた同じで

ある。このように不思議な徳のあるお経なので、この経をたもつ人を、どうして天照大
       ※1            ※2
神や八幡大菩薩、ならびに富士の浅間大菩薩も捨て去ってしまうことができようか、そ

のようなことは決してできないと、大変にたのもしいことである。 

 またこの経に敵対する国があったならば、どのように正直に祈願してみても、必ずそ

の国に七つの難が生起し、他国からも攻められて国が滅び去ってしまうことは、ちょう

ど大海で大船が台風にあって沈没してしまうようであり、大日照りが続いて草木のすべ

てを枯らしてしまうようなものである。現在日本で行なわれているすべての祈願は、日

蓮の一門である法華経の行者を無視し迫害を加えているので、いろいろとお祈りをして

いるが一向に叶えられず、むしろ逆に大蒙古国からは攻められて、すでに日本は滅亡し

ようとしているのである。現今の世相をよくご覧になられよ。まさしくその通りになっ

ているではないか。これはすべて法華経に敵対しているからだということをお信じなさ

い。

 五郎殿が亡くなられてから早くも四十九日がたった。世の無常は常識であるが、亡く

なられた事を聞くだけでも悲しみに堪えないものである。ましてや母の身にとり、また

妻の身にとってはなおさらのことであり心痛のほどが推察できる。人の子には幼稚で可

愛い子や、おとなしい子もあり、また反対にみにくい子、身体の不自由な子もあるが、

可愛く思う情愛には変わりはない。五郎殿は男の子であるうえに身体も満足で、武芸に

も通じ、心も情け深い人であった。夫である上野殿にはあなたがまだ若く盛りの頃に死

別してしまったので、深い悲嘆に見舞われてしまったが、五郎殿を身ごもっておられた

ので、たとえ火の中、水の中に入ってでも夫の後を追って行こうされたが、それもでき

ずいた。しかしこの子も無事に生まれたので、誰かにあずけて身を投げ夫の後を追うつ

もりで心をなぐさめつつこの十四五年を過ごしてきた。それなのにどうしたらよいので

あろうか。二人の男の子に担ってもらってと頼もしく思っていたのに、今年九月五日、

月が雲にかくされてしまったように、花が風に吹き散らされてしまったように、愛しい

わが子に先立たれてしまい、夢を見ているのかうつつなのか、あわれに永い悲しい夢で

あると思っていたのに、夢ではなくて現実であり四十九日忌も早や過ぎてしまった。

 これが現実だとしたらどうしようか。咲いた花は散らないで、蕾の花が開かぬままで

枯れたように、老いたる母がこの世にとどまり、若い子が先に去って行ってしまった。

まことに情けない無常の世の中である。

 このような情ない国土を捨て去って、わが子五郎殿が信仰していた法華経を信じ、永

久に変化しない仏の国土である霊山浄土へお参りなさい。父は霊山浄土におられ、母は

娑婆に残っておられる。この二人の中間におられる故五郎殿の心を思いやると、このう

えなくあわれに覚えてならない次第である。まだ申し上げたい事もたくさんあるが、こ

れにてとどめることにする。恐れながら謹んで申し上げる。

十月二十四日                          日 蓮  花押

上野殿母尼御前 御返事

【語註】

 ※1 八幡大菩薩: 八幡宮の本地を菩薩として呼ぶ称で、神仏混淆の結果起こったも
           の。八幡神は源氏の氏神として厚く尊崇され、また武士全体の守護神とされた。

 ※2 富士千眼大菩薩:静岡県富士宮市大宮にある富士山本宮浅間【せんげん】神社の
           祭神のこと。浅間に千眼の字をあてたもの。

【解説】

 富士の上野に住んでいた南条兵衛七郎の妻であり、七郎五郎の母である女性に送られ

た手紙である。この女性は若い頃に夫と死別したが、その時、すでに2人目の子どもを

身ごもっていた。夫の死後に七郎五郎が生まれたが、この子もまた16歳で世を去り、母

尼の嘆きは大きかった。その子の四十九日忌に当たり、母が追善供養のためにご供養の

品々を身延山の日蓮に届けて来たお礼状である。

 例により単なる礼状ではなく、大部分は法華経に関する教化のための文章であり、法

華の信仰を持つことがいかに大事なことであるかを教えられている。まず法華経という

お経は釈尊一代の数多い経典群の中でも特に最位第一の経典であるとし、一切経に勝る

教法であるとし、無量義経の中の「四十余年間まだ真実を説いていない」という経文に

大きな意味を認め、法華経の行者が究極に求める霊山浄土は、法華経の信仰によっての

み至り得ることのできるものであるとしている。

 一方、日蓮はわが子を失った母の思いにも寄り添う。夫が死去した時、七郎五郎はこ

の母のお腹にいた。この子がいなかったら火にも水にも入りたいと思ったのに、この子

が無事に生まれたことを心の慰みとして14,5年を生きて来た。自分が死んだならば二

人の男の子に荷われて墓所に行くことを本望としていたのに。「満月に雲のかかり、晴

れずして山に入り、今を盛りに咲く花がにわかに風に吹かれて散ってしまった」「蕾の

花が風のためにもろくも萎み、満月が雲の中に急に隠れてしまった」ようだ。哀れなり

哀れなり。ああ恨めしい、恨めしい。ーーわが子を失った母の心が目の当たりに流露さ

れているといえよう。

 七郎五郎は幼い時から法華経を信じる賢き父の跡を受け継ぎ、まだ20歳にもならない

のに南無妙法蓮華経と唱えられて、必ずや成仏しておられる。悲母としてわが子を恋し

く思いこがれ、乞い願うならば、南無妙法蓮華経と唱えられて、亡き夫、亡き子と3人一

緒に霊山浄土に生まれ変わりたいと、願われるがよい。


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テーマ:仏教・佛教 - ジャンル:学問・文化・芸術

【 2023/08/03 05:39 】

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